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「うちは冷房の効いたオフィスだから、熱中症対策の義務化は関係ない」——そう考えた総務担当者は少なくないはずです。
この記事では、オフィス企業が「対象外」と言い切れない理由と、見落とされがちな2つの盲点、今日から整えられる備えを整理します。
オフィス企業は本当に対象外なのか

義務の直接対象になる条件は、場所と時間の2つの数字で決まります。
場所はWBGT(暑さ指数。
気温・湿度・日射をまとめた指標です)28度以上、または気温31度以上。
時間は、その場所での作業が継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超える見込みであることです。
空調の効いた執務室でのデスクワークは、通常この条件に当てはまりません。
ここだけを見れば、直接の義務対象ではないと整理できます。
問題は、会社の業務が執務室の中だけで完結しないことです。
同じ会社に炎天下を長時間動く社員がいれば、その業務は条件しだいで対象になります。
判断の単位は会社ではなく業務です。
「うちはオフィスだから」と会社単位でくくると、対象になりうる業務を見落としてしまいます。
盲点1: 移動時も対象に含まれる

これは解釈の話ではなく、通達に明記されています。
「暑熱な場所とは、湿球黒球温度(WBGT)が28度以上又は気温が31度以上の場所をいい、必ずしも事業場内外の特定の作業場のみを指すものではなく、出張先で作業を行う場合、労働者が移動して複数の場所で作業を行う場合や、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨であること」(厚生労働省労働基準局長通達)。
営業の外回りやクライアント先への訪問、拠点間の移動そのものが、この「移動して複数の場所で作業を行う場合」に該当しうるということです。
見落とされやすいのは、外回りや現場への往訪、屋外イベントや展示会の対応、昼休みの外出といった、日々の業務の中に溶け込んだ暑熱曝露です。
「営業はオフィス勤務」という分類のまま、実際の外出時間は誰にも記録されていない——というケースは珍しくありません。
厚生労働省の通達によれば、令和6年の熱中症による休業4日以上の死傷災害は1,195人と、統計開始以来もっとも多い水準でした。
移動時の対策を社員個人の判断に任せてしまうと、実行率は測れず、記録も残りません。
盲点2: すべての企業にかかる安全配慮義務
もう一つの盲点が安全配慮義務です。
改正規則の直接対象かどうかを問う前に、暑さ指数の周知・体調不良時の連絡ルール・移動時の暑さ対策という3つは、どの会社にも意味があります。
根拠は労働契約法第5条です。
労働者が安全に配慮されながら働けるよう必要な配慮をする会社の責任であり、改正規則の対象かどうかにかかわらず及びます。
改正規則が最低限やるべきことだとすれば、安全配慮義務はその土台にあたります。
なお、外回りのような業務中の移動は会社の指揮下にある業務そのもので、安全配慮義務の対象になりやすい領域です。
一方、通勤中の熱中症は労災保険上「通勤災害」という別の枠組みで扱われ、認定は個別の事案ごとに判断されます。
どちらに当たるかで立ち止まる前に、備えを用意しておくのが実務的です。
義務化と安全配慮義務を二段構えで整理する
整理の仕方はシンプルです。下段が全社共通の土台、上段が該当業務への上乗せと考えると迷いません。
層 | 何か | オフィス企業での中身 |
|---|---|---|
下段:安全配慮義務(全社共通の土台) | 全社員の健康を守る配慮責任 | 暑さ指数の周知・体調不良時の連絡ルール・移動時の日傘や水分の用意 |
上段:義務化(該当業務への上乗せ) | 暑熱下の作業がある部門への法定義務 | 報告体制の整備・重篤化防止の手順作成・該当社員への周知 |
「うちは対象外かどうか」で止まらず、下段は全社、上段は該当部門と分けて考えるだけで、抜け漏れがなくなります。
義務化そのものの全体像は熱中症対策の義務化とは?企業がやるべきこと総まとめにまとめています。
今日から用意できる3つの備え

暑さ指数の周知は、環境省「熱中症予防情報サイト」で当日の指数を確認し、指数が高い日は屋外での移動や待機をできるだけ短くする、という運用だけで十分に機能します。
通達も、通風のよい屋外作業などについては天気予報や環境省サイトでの判断で差し支えないとしています。
体調不良時の連絡ルールは、異変に気づいたら涼しい場所へ移動し、水分と塩分を取りながら所属長や総務へ連絡する、という4段階の流れを1枚にしておくだけで機能します。
判断の基準は「自力で水分がとれるか」の一点に置き、迷ったら救急要請でかまいません。
移動時の対策としては日傘が現実的です。
環境省の資料によれば、日射を99%以上カットする日傘で汗の量が約17%減り、日向に比べて1〜3℃程度のWBGT低減効果があるとされています。
クールビズ単独では熱ストレスの低減が約11%であるのに対し、日傘を併用すると合計で約20%まで下がるという結果も示されています。
用意の仕方は、社員に各自購入してもらう方法、会社で一括購入して玄関に置く方法、シェアリングサービスを導入する方法の3通りが考えられます。
外出者が全社に散らばっている場合や、総務の人手を増やせない場合は、管理を外に出す方法が向いています。
判断材料は費用の多寡よりも、来年の夏も同じ状態を保てるかどうかです。
WBGTの運用のコツや、日傘の効果をさらに詳しく知りたい方は炎天下の外回り営業に「日傘」という選択肢をご覧ください。
総務がすぐに使える文例やチェックリストはビニール傘の廃棄と夏の暑さ対策——総務が傘立てから始める2つの打ち手にまとめています。
よくある質問
Q1. オフィス中心の会社は義務化の対象外ですか。
A. 屋内の事務作業だけなら直接の義務対象にはなりにくい一方、通達は移動時も対象に含む趣旨としています。
外回りや現場往訪のある会社は条件しだいで対象になりえますし、安全配慮義務はすべての会社に及びます。
Q2. 通勤中に社員が熱中症になった場合、会社の責任になりますか。
A. 通勤中は労災保険上「通勤災害」という業務中とは別の枠組みで扱われ、認定は個別の事案ごとに判断されます。
一律に会社の責任になるとは限りませんが、注意喚起や移動時対策の用意が実務上の備えになります。
Q3. 対象外だと判断できれば何もしなくてよいですか。
A. 安全配慮義務は残ります。通達も、対象に当たらない場合は改正省令に準じた対応を行うよう努めることとしています。
Q4. 「移動時も対象」というのは推測ではなく通達に書かれているのですか。
A. はい。厚生労働省労働基準局長通達に、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨であることが明記されています。
Q5. 対象かどうかの判断はどの単位で行えばよいですか。
A. 会社単位ではなく業務単位で行うことをおすすめします。
同じ会社の中でも、外回りが多い部門とデスクワーク中心の部門では状況が異なります。
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出典・参考: 厚生労働省労働基準局長通達「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」(基発0520第6号・令和7年5月20日) / 厚生労働省「職場における熱中症対策」ポータル / 環境省報道発表「日傘の活用推進について〜夏の熱ストレスに気をつけて!〜」(2019年5月21日) / 環境省 熱中症予防情報サイト(暑さ指数) / 労働契約法(安全配慮義務・第5条)。
日傘の数値は人工気象室(気温30℃・湿度50%・日射量1.2kW/㎡・風速0.5m/s)で男性6名が15分間の歩行運動を2回行った実験結果です。
※本記事は2026年7月時点の公開情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。
法令の解釈・適用は個別の事情により異なる場合があります。
実際の対応にあたっては、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士等の専門家にご確認ください。



