目次目次を開く ⌄目次を閉じる ⌃
オフィス移転で見落とされがちなエントランス設計|来客動線・雨の日運用のチェックリスト
「オフィス移転 チェックリスト」で検索すると、30項目を超える長大なリストがいくつも見つかります。物件選定、原状回復、レイアウト、インフラ、各種届出——網羅性は十分です。
ところが不思議なことに、来客が最初に触れる場所であるエントランスの項目は、ほとんどありません。 あっても「共用部の確認」といった1行です。受付方式をどうするか、来客動線をどう引くか、傘立てをどこに置くか、雨の日に来客をどう迎えるか——移転前にここまで決めている企業は、実は多くありません。
本記事は、移転チェックリストの「全部」をなぞる記事ではありません。既存のチェックリストが薄い「エントランス」に絞り、設計段階で決めるべきこと、見落とされやすいこと、移転後に後悔しやすいことを整理します。最後に、そのまま使える15項目のチェックリストを付けています。

移転の全体像とエントランスの位置づけ
はじめに、移転の大きな流れだけ確認しておきます。詳細な全体スケジュールやタスクの網羅は本記事の範囲外です。
時期の目安 | 主なタスク |
|---|---|
6〜12か月前 | 移転方針の決定、物件選定、レイアウト基本計画 |
3〜6か月前 | 内装設計・工事、什器・インフラの手配 |
1〜3か月前 | 各種届出、引越し準備、社内告知・運用ルール整備 |
移転後 | 旧オフィスの原状回復、新オフィスの運用定着 |
エントランスに関わる意思決定は、このうち「内装設計」の段階でほぼ確定します。 受付カウンターの有無、来客動線、床材、サインの位置、傘立てを置くスペース——いずれも設計図面に載る要素であり、工事が始まってからの変更は難しく、移転後の変更はさらに難しくなります。
エントランスが占める面積は、オフィス全体のごく一部です。しかし、来客・採用候補者・取引先——社外の人が自社を体験する場面では、必ず最初に通過する場所です。面積あたりの「対外的な影響度」で見れば、オフィスの中で最も高い区画だといえます。面積が小さいからと検討も小さくしてしまうと、この影響度との間にギャップが生まれます。
つまりエントランスは、「あとで考える」が通用しない領域であり、面積のわりに影響が大きい領域です。にもかかわらず、検討の優先順位は低くなりがちです。なぜでしょうか。
なぜエントランスは見落とされるのか
エントランスが検討から漏れるのは、担当者の不注意ではなく、移転プロジェクトの構造によるものです。理由は3つあります。
1. 検討が執務スペース中心になる
移転の目的は多くの場合、「座席数の確保」「働き方の変化への対応」「コスト見直し」です。レイアウト検討の熱量は自然と執務エリア——座席、会議室、集中スペース——に集中します。エントランスは「残った面積」として扱われ、議論の時間がほとんど割かれないまま設計が進みます。
2. 共用部は「ビル任せ」になりがち
ビルの1階エントランスや共用ロビーは管理会社の領域であり、テナントが決められることは確かに多くありません。問題は、この「共用部は自分たちで決めることが少ない」という感覚が、専有部の自社エントランスの検討まで薄くしてしまうことです。ビルのエントランスと自社の受付前は別物であり、後者は完全に自社の設計領域です。
3. 日常運用を担う総務が、設計段階で関与しにくい
内装設計は、移転プロジェクトチームと設計会社の間で進みます。日々の受付対応、清掃、傘や郵便物の運用を最もよく知る総務・現場の声が反映されるのは、設計が固まった後半になりがちです。「見た目は決まったが、運用は決まっていない」エントランスは、こうして生まれます。
対策はシンプルで、受付・清掃・備品の運用を知るメンバーを、内装設計のレビューに早い段階から入れることです。図面を「毎日ここで働く人の目」で見てもらうだけで、運用上の見落としの多くは設計段階で拾えます。
移転後に発覚する典型例
- 傘立てを置く場所が図面上どこにもなく、雨の日に廊下が傘だらけになる
- 来客・宅配・従業員の動線が受付前で交差し、毎朝混み合う
- 意匠優先で選んだ床材が、雨の日に想定外に滑る
- ビルの入口から自社受付までのサインがなく、来客が毎回迷う
いずれも、設計段階で30分議論していれば防げたものです。逆に言えば、必要なのは大きな予算ではなく、設計会議の議題に「エントランスの運用」を1回載せることです。次章で、その会議で決めるべき論点を整理します。
エントランス設計で決めること
エントランス設計の論点は、大きく4つに整理できます。

受付方式
最初に決めるべきは受付方式です。カウンターの有無で必要な面積が変わるため、レイアウト設計の前に決める必要があります。
方式 | 向いているケース | 検討ポイント |
|---|---|---|
有人受付 | 来客頻度が高い、接客品質を重視 | 人員配置、不在時のバックアップ |
無人受付(受付システム) | 来客頻度が中程度以下 | タブレットの位置、通知が誰に届くか |
ハイブリッド | 時間帯で来客数に波がある | 切り替え時の案内表示 |
無人受付を選ぶ場合は、「来客がタブレットの前で迷わないか」を来客の目線で確認します。呼び出し後にどこで待つのか、椅子はあるのか、も設計時に決めておく項目です。
見落とされやすいのが待合スペースです。約束の時間より早く着いた来客、担当者が迎えに来るまでの数分間——立ったまま待たせるのか、椅子と荷物置きがあるのか。ここは受付方式に関わらず必要になる機能なので、面積の計画に最初から含めておきます。
来客動線とセキュリティ
- エントランスから応接エリアまで、執務エリアを通らずに案内できるか
- 来客が入れる範囲と社員のみの範囲のゾーニング(入退室権限の設計)
- 宅配・郵便の受け渡しを来客動線と分けられるか
動線とセキュリティは表裏一体です。応接エリアを執務室の奥に置くと、来客のたびに執務エリアを横切ることになり、セキュリティ上も集中環境の面でも不利になります。
ブランド表現
エントランスは、来客が最初に目にする自社の「顔」です。ロゴサイン、照明、素材感への投資は、この場所が最も効果が高いといえます。
表現の手段は、ロゴサインだけではありません。照明の色温度、壁や床の素材感、観葉植物、飾るプロダクトやアートワーク——エントランスの数秒の体験は、こうした要素の組み合わせで決まります。「自社をどんな会社として感じてほしいか」を一言で言語化してから設計会社に伝えると、提案の精度が上がります。
ただし、「見た目」と「運用」はセットで考える必要があります。たとえば磨き上げた石材やタイルの床は美しい一方、濡れると滑りやすいものがあります。ショーケースのようなエントランスを作っても、雨の日に段ボールやマットが乱雑に置かれるなら、印象はむしろ悪くなります。晴れの日のパースだけで判断しないことが大切です。
サイン計画
- ビルの入口・エレベーターホールから自社受付までの導線サイン
- 特に「エレベーターを降りて左右どちらか」は最大の迷いポイント
- ビル側の共用部にサインを出せるかは管理会社への確認が必要
- 移転直後は取引先・配送業者が旧住所の感覚で動くため、案内メールに「エレベーターを降りて右」まで書いておくと迷いが減る
サインの検証は簡単です。移転前の内覧時に、初めて来る社員に「受付までたどり着けるか」を歩いてもらうだけで、迷いポイントはほぼ洗い出せます。
忘れられがちな「雨の日」
エントランス設計の議論で、最後まで出てこないのが「雨の日」です。設計の打ち合わせは晴れた会議室で行われ、図面のパースはいつも晴れています。しかし実際のオフィスには、雨の日が定期的にやってきます。雨の日は例外ではなく、定常運転の一部です。
なお、これは新築・スケルトンからの内装に限った話ではありません。居抜きやセットアップオフィスへの移転でも、「前のテナントの傘立ての位置」がそのまま自社に合うとは限りません。既存のレイアウトを引き継ぐ場合こそ、雨の日の運用を自社の人数・来客頻度で検算する必要があります。
雨の日のエントランスで決めておくべきことは4つあります。

傘立ての容量と位置
- 容量: 雨予報の日の実際の出社人数分を見込む。移転で人員が増えるなら、傘立てもそれに合わせて増える
- 位置: 入口の外側か内側か。内側に置くなら、濡れた傘から垂れる水の範囲にマットが必要
- 図面への反映: 傘立ては「あとで置けばいい」と思われがちだが、サイネージや植栽と場所を取り合う。設計段階でスペースを確保しておく
- 動線との関係: 傘立ての前で人が立ち止まるため、入口ドアの開閉範囲や人の流れと重ならない位置に置く。雨の日の朝は傘立ての前に短い行列ができることも想定する
吸水マット
- 長さの目安は歩行4〜6歩分(約1.8〜2.7m)。短いマットでは靴裏の水を取り切れない
- マットを敷く前提で床の割り付け(見切り材、マット用の凹みスペース)を設計に含めると、見た目も安全性も両立できる
- レンタルマットを使う場合は、交換サイクルと梅雨時の増量を契約時に確認する
- ビル共用部のマットと自社専有部のマットは別物。共用部の設置状況を内覧時に確認し、足りない分を専有部側で補う
来客の傘
- 来客用の傘立てを従業員用と分けて受付近くに置く
- 濡れた傘の預かり方(傘袋・タオルの用意)を受付フローに含める
- 帰り際に降り出した場合に貸し出せる傘を数本用意しておく
床材の滑りやすさ
- 意匠性の高い床材には、濡れると滑りやすいものがある
- 職場の事故の型別で最も多いのは「転倒」で、令和7年は37,195人・全体の約27.5%を占める(厚生労働省「令和7年 労働災害発生状況」)。床材の防滑性は、意匠の問題である以上に安全の問題
- 設計会社に「雨の日の防滑性」を要件として明示的に伝える。要件にしなければ、意匠優先で選定される
- 引き渡し前の内覧で、実際に床を濡らして滑りやすさを確認するくらいの慎重さがあってよい
移転は、傘の運用を設計し直す機会でもある
移転後のオフィスでは、従業員の置き傘が少しずつ増え、設計時に想定した傘立ての容量はすぐに埋まっていきます。傘立てを増やす以外の選択肢として、傘のシェアリングサービス「アイカサ」をオフィスに設置する方法があります。
従業員は必要なときにアプリで傘を借り、駅やコンビニなど全国1,000駅以上・合計約2,500か所(2026年7月時点)のスポットにも返せるため、個人の置き傘そのものが減り、エントランスの傘まわりがすっきりします。
設置に必要なスペースは約48cm四方(A4用紙2枚分ほど)で工事も不要なため、傘立てを増やすよりも省スペースです。来客への貸し出しにも使えます。新しいエントランスを「傘であふれない」状態に保つための、空間設計上の選択肢の一つです。
移転時エントランスチェックリスト
最後に、ここまでの内容を15項目のチェックリストにまとめます。設計段階・雨の日運用・運用開始前の3ブロックに分けています。設計段階の7項目は内装設計の打ち合わせが始まる前に、残りの8項目は移転日の1か月前までに確認するのが目安です。
設計段階で決めること
- [ ] 1. 受付方式(有人/無人/ハイブリッド)を決めたか
- [ ] 2. 来客動線が執務エリアと分離されているか
- [ ] 3. セキュリティゾーニングと入退室権限を設計したか
- [ ] 4. 宅配・郵便の受け渡し場所を来客動線と分けたか
- [ ] 5. ビル入口から自社受付までのサインを計画したか(ビル側への確認含む)
- [ ] 6. 床材の防滑性(雨天時)を要件として設計会社に伝えたか
- [ ] 7. 吸水マットのスペースを図面に反映したか
雨の日の運用
- [ ] 8. 従業員用傘立ての容量は雨天時の出社人数に足りるか
- [ ] 9. 来客用の傘立てを分けて用意したか
- [ ] 10. 濡れた傘の対応(傘袋・水切り・タオル)を決めたか
- [ ] 11. 帰り際に貸し出せる傘を用意したか
- [ ] 12. 傘のシェアリング等、置き傘を減らす仕組みを検討したか
運用開始前に決めること
- [ ] 13. 雨天時の清掃頻度を管理会社・清掃業者と合意したか
- [ ] 14. 受付対応フロー(来客通知、案内、傘の預かり)を文書化したか
- [ ] 15. 移転後1か月のふりかえり(動線の混雑、傘立ての過不足、サインの分かりにくさ)を予定に入れたか
まとめ|「最初の数歩」から設計する
オフィス移転の検討は執務スペースに偏りがちですが、来客の体験はエントランスの数歩から始まります。そしてエントランスの設計は、内装設計の段階でほぼ確定し、後からの変更は困難です。
受付方式、来客動線、ブランド表現、サイン計画。そして忘れられがちな「雨の日」。本記事のチェックリスト15項目を設計会議に持ち込めば、移転後に「しまった」と気づく典型的な見落としは防げます。
移転計画の全体像や他の領域のチェックリストは、以下の記事も参考にしてください。
移転を機に、傘まわりの運用を見直すなら
傘のシェアリングサービス「アイカサ」は、オフィスに傘立てを設置し、従業員がアプリで借りられる法人向けサービスを提供しています。従業員は無料で使い放題、借りた傘は駅やコンビニでも返却できるため置き傘が減り、エントランスがすっきりします。来客への貸し出しにも使えます。新オフィスの設計段階でのご相談も可能です。
[CTA: アイカサ法人向けサービスの資料請求はこちら]
