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職場の熱中症対策グッズは何を揃えるべきか|義務化対応の必須品リスト
「熱中症対策グッズ」で検索すると、ネッククーラーから冷感タオルまで何十種類もの商品が並びます。しかし総務・安全衛生の担当者が本当に知りたいのは、商品の一覧ではないはずです。法令対応として最低限何が必要で、何は「あれば良い」レベルなのか。自社の職種なら何から揃えるべきなのか。 この2つに答える記事が、ほとんど見当たりません。
この記事では、2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則(第612条の2)の義務内容を起点に、「必須」と「推奨」を明確に区別した揃え方を、職種別に解説します。

前提|義務化されたのは「グッズの購入」ではない
まず誤解を正しておきます。2025年6月施行の改正省令が事業者に義務づけたのは、次の2点です(厚生労働省 基発0520第6号)。
1. 熱中症の自覚症状がある作業者や、そのおそれのある作業者を発見した者が、その旨を報告するための体制の整備と関係者への周知
2. 熱中症のおそれがある作業者を早期に把握し、症状の悪化を防ぐための措置の内容・実施手順の策定と周知
対象は、WBGT(暑さ指数)28℃以上または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業。違反には6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています(労働安全衛生法第119条)。
つまり、特定のグッズを買うこと自体は義務ではありません。ただし、策定した手順は実行できなければ意味がなく、「体を冷やす」「水分・塩分を摂らせる」「状態を確認する」手順には、それを支える物品が事実上必須になります。厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要綱」も、氷・冷たいおしぼり・水風呂・シャワー等の身体を冷やせる物品と設備、飲料水の備え付け、体温計・体重計等の配備を具体的に挙げています。
この「手順を回すために必須のもの」と「リスクをさらに下げる推奨品」を分けて考えるのが、この記事の軸です。
まず揃える|義務化対応の必須アイテム7点
手順書だけあって物がない状態を避けるため、最初に揃えるべきは次の7点です。

# | アイテム | 何のために必要か |
|---|---|---|
1 | WBGT指数計(JIS B 7922適合・黒球付き) | 対象作業かどうかの判定(WBGT28℃)と日々の管理 |
2 | 緊急連絡網・報告先の掲示物 | 報告体制の「周知」を形にする。連絡先が見えなければ体制は機能しない |
3 | 身体冷却用品(氷・保冷剤・冷水、可能ならアイスバスやシャワー) | 重篤化防止措置の中核。「脱衣と冷却」を即実行するため |
4 | 経口補水液・スポーツドリンクと塩分補給品(塩飴・タブレット) | 水分を自力で摂れる場合の初期対応と、日常の予防 |
5 | 体温計 | 体調異変時の状態確認。要綱も休憩場所への配備を挙げている |
6 | 冷房の効いた休憩場所(横になれる広さ) | 「涼しい場所への避難」の行き先。物品ではなく場所だが最重要 |
7 | 救急対応手順のフロー掲示物 | 意識確認→冷却→搬送の判断を、その場の誰でも実行できるようにする |
ポイントは、7点すべてが「症状が出た人を素早く冷やし、報告し、搬送判断する」という義務化された手順に直結していることです。ネッククーラーや冷感タオルより先に、この7点が揃っているかを確認してください。
購入時の注意を2つだけ挙げます。まずWBGT指数計は、黒球(黒い球体のセンサー)が付いたJIS B 7922適合品を選ぶこと。黒球のない簡易的な「熱中症計」は輻射熱を測れず、直射日光下や熱源のそばで実際より低い値が出ることがあります。
次に緊急連絡網の掲示物は、部署名ではなく「誰に・どの番号で」まで書くこと。報告する側は体調不良の同僚を前にした状態です。掲示を見た瞬間に電話をかけられる粒度でなければ、体制として機能しません。夜間・休日シフトがある職場は、その時間帯の報告先も忘れずに載せます。
なお、対策の効果は統計にも表れ始めています。厚生労働省の確定値では、令和7年(2025年)の職場での熱中症による死傷者は1,803人と、統計を取り始めた2005年以降で最多となった一方、死亡者は19人と前年比約39%減少しました。
記録的な猛暑(令和7年6〜8月の平均気温偏差は+2.36℃と統計開始以来最高)で発症件数が増えるなかでも、早期発見と重篤化防止の備えがあれば死亡は防げる。必須7点は、そのための最小セットです。
職種別・環境別の揃え方
必須7点の先は、職種によって優先順位がまったく異なります。厚生労働省の確定値によると、令和7年の死傷者1,803人を業種別に見ると、製造業365人、建設業292人、商業237人、運送業220人、警備業199人と続き、屋外の現場に限らず、工場・店舗・配送まで幅広い業種で発生しています。
死亡者19人では建設業の5人が最多で、警備業の3人が続きます。「うちはデスクワーク中心だから」と対象外にせず、自社に近い環境から読んでください。

建設・屋外作業
最もリスクが高く、投資対効果も明確な職種です。
- 最優先3点: ファン付き作業着(空調服)/携帯型WBGT計(現場ごとの実測用)/クーラーボックスと氷の日次補充体制
- 次に: 遮光ネット・簡易屋根(要綱も屋外作業場所への「簡易な屋根等」の設置を挙げています)、ネッククーラー、保冷剤ポケット付きベスト
- 運用面: 梅雨明け直後と休み明けは暑熱順化が切れているため、新規入場者教育に熱中症の項目を入れ、初日から高強度作業に就けない計画にする。厚生労働省の要綱も、計画的に暑熱順化期間を設けることを推奨しています。初日は作業時間を短めにし、数日から1週間かけて段階的に慣らすのが基本です
工場・倉庫(屋内)
屋内は環境省の暑さ指数予測が使えないため、「測る」への投資が最優先になります。
- 最優先3点: 定点設置型WBGT計(できれば閾値超過を通知できるもの)/スポットクーラー・大型送風機/冷凍庫(保冷剤・氷を回転させる基地)
- 次に: 遮熱シートによる熱源の遮へい、休憩室の増設・冷房強化、給水器の増設(作業場所の近くに。要綱は高温多湿作業場所への飲料水の備え付けを挙げています)
- 運用面: 熱源のそばと出入口では体感が大きく違うため、WBGT計は「最も暑い作業位置」に置く。事務所の壁の温度計では代用になりません
オフィス+外回り(営業・巡回)
執務室内は通常リスクが低いため、外に出る時間に投資を集中します。
- 最優先3点: 日傘または帽子(後述)/携行用の経口補水液・塩分タブレット/出発前に暑さ指数予測を確認する運用ルール
- 次に: 冷感タオル、携帯扇風機、訪問件数・移動時間帯の調整基準(例: アラート発表日は13〜15時の徒歩移動を避ける)
- 運用面: 外回り中は一人になるため「報告体制」が機能しにくい職種です。体調異変時に連絡する先を携行カードやスマートフォンで常に見られるようにしておきます。営業車を使う場合は、炎天下に駐車した車内が短時間で高温になる点にも注意が必要です。乗車前にドアを開けて換気し、走行までの数分はエアコンを最大にする、車内に飲料を常備するといった小さなルールを決めておくと、移動そのものが対策になります
店舗・接客(駐車場誘導・屋外売場を含む)
- 最優先3点: 屋外持ち場のローテーション表(連続時間を区切る)/バックヤードの冷却スペースと冷蔵庫(飲料・保冷剤)/通気性のよい制服・冷感インナーの支給
- 次に: 屋外持ち場への日よけ(パラソル・テント)、ネッククーラー
- 運用面: 接客中は本人が不調を言い出しにくいため、店長・リーダーが声かけで確認する巡回を手順に組み込みます
カテゴリ別の解説|5つの機能で考える
個々の商品は毎年入れ替わりますが、機能のカテゴリは変わりません。「環境を冷やす」「体を冷やす」「水分・塩分」「遮る」「測る」の5つで揃っているかを点検すると、抜けが見つかります。
1. 環境を冷やす
スポットクーラー、送風機、ミストファン、休憩所の冷房。作業場所そのもののWBGT値を下げる、最も根本的なカテゴリです。設備投資額は大きいものの、要綱でも作業環境管理の筆頭に挙げられています。
要綱は屋内の高温多湿作業場所について、通風または冷房の設備を設けること、その設備には除湿機能があることが望ましいことを挙げています。WBGTは湿度の影響が大きい指標なので、冷やすだけでなく湿度を下げることにも効果があるためです。
同じ理由で、送風機やミストは湿度が非常に高い環境では効果が落ちます。また、通風の悪い場所での散水は、かえって湿度を上げてWBGT値を悪化させることがあると要綱も注意しています。
休憩所もこのカテゴリの一部として設計します。要綱が求める水準は「高温多湿作業場所の近隣」に「冷房を備えた、または日陰などの涼しい」場所で、「足を伸ばして横になれる広さ」を確保すること。椅子が2脚あるだけの詰所では、緊急時の冷却場所として機能しません。
2. 体を冷やす
ファン付き作業着、ネッククーラー、冷感タオル、保冷剤ベスト、そして緊急時用の氷・アイスバス。日常予防用と緊急対応用は分けて管理します。緊急用の氷や保冷剤は「使ったら補充する」ルールまで決めて初めて備えになります。
3. 水分・塩分
飲料水・スポーツドリンク・経口補水液・塩飴。厚生労働省は、自覚症状の有無にかかわらず、作業前後と作業中の定期的な水分・塩分摂取を求めています。同省の「STOP!
熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱では、目安として0.1〜0.2%の食塩水、またはナトリウム40〜80mg/100mlのスポーツドリンク等を、20〜30分ごとにカップ1〜2杯程度摂取することが示されています。のどが渇いてからでは遅い、を前提に、作業場所の近くに置くことが重要です。
飲料の使い分けも決めておくと迷いません。日常の予防には水や麦茶+塩分補給品、大量に汗をかく作業ではスポーツドリンク、そして体調異変が起きたときの初期対応には経口補水液、という役割分担が基本です。経口補水液は塩分濃度が高く日常の水分補給向けではないため、「緊急対応用」として区別して備蓄します。
4. 遮る
直射日光と輻射熱を防ぐカテゴリです。遮光ネット、簡易屋根、テント、遮熱シート、帽子、そして日傘。
日傘は「作業現場の装備」という印象が薄いかもしれませんが、環境省が2019年に発表した実証実験では、帽子のみと比べて日射を遮る日傘(遮光率99%以上)の使用で歩行時の汗の量が約17%減少し、日傘などで日射を遮った場合のWBGT値は日なたと比べて1〜3℃程度低くなることが確認されています。
WBGTの1〜3℃は、基準値表の作業強度区分1つ分に相当する差です。両手を使う作業には向かないため、建設現場では帽子・日よけが基本ですが、通勤・外回り・巡回・駐車場までの移動といった「歩く時間」には、日傘が最も手軽で効果の大きい選択肢になります。
5. 測る
WBGT指数計(必須7点の筆頭)に加え、余力があれば体調側を測るウェアラブル機器(心拍などから熱ストレスを推定するタイプ)も選択肢です。ただしウェアラブルはあくまで補助です。環境の測定と巡視・声かけという基本を置き換えるものではありません。
備蓄チェックリスト|人数×日数で考える
グッズは「種類」だけでなく「量」の設計が必要です。夏季シーズン前に、次の観点で棚卸しをしてください。

- 飲料: 対象作業者数 × 1日あたり1〜2L を目安に、常時2〜3日分。冷蔵庫・給水器の容量も確認
- 塩分補給品: 1人1日数個 × 人数 × シーズン分をまとめ買いし、作業場所ごとに小分け配置
- 経口補水液: 日常消費用とは別に、緊急対応用として作業グループごとに数本を固定在庫にする(使用期限を年1回点検)
- 氷・保冷剤: 緊急冷却に使う分を「常に凍っている状態」で維持できる冷凍庫容量があるか
- 消耗品の補充ルール: 在庫が減ったら誰が発注するか。点検担当と頻度(週1回など)を決める
- 保管場所の周知: どこに何があるかを全員が知っているか。これは義務化された「周知」の一部と考えて、朝礼や掲示で示す
- アラート発表日の増強: 熱中症警戒アラート(暑さ指数33以上が予測される日に発表)の日は消費量が跳ね上がる。前日夕方の予測値を見て、飲料と氷を上乗せ発注する運用にしておく
量の設計で迷ったら、「最も暑い日に、最も人が多い体制で、補充なしで1日もつか」を基準にすると過不足が判断できます。
個人任せにしない仕組み化
最後に、最も多い失敗パターンについて触れます。それは「良いグッズを選定し、配布して終わり」です。
配布型の対策は、時間が経つほど確実に劣化します。冷感タオルは家に置き忘れられ、塩飴の袋は誰かの引き出しで眠り、日傘は「今日は曇りだから」と持参されません。改正省令が義務づけたのが物品ではなく体制と手順だったことは、この点で示唆的です。対策は、個人の心がけではなく職場の仕組みに載せたときに初めて継続します。
仕組み化の要点は3つです。
1. 費用は会社が持つ。 熱中症対策は労働衛生上の措置であり、個人の自己負担に頼る設計は続きません
2. 「持ってくる」より「置いておく」。 経口補水液は共用冷蔵庫に、保冷剤は共用冷凍庫に、日よけは持ち場に。個人の持参に依存する品目を減らすほど、対策の実行率は上がります
3. 点検を当番化する。 在庫・充電・凍結状態のチェックを週次の当番業務にし、チェック結果を記録に残す
もうひとつ、グッズの運用はWBGT値の測定・記録とセットで回すと効果が安定します。「今日のWBGT値が基準に近いから休憩所の氷を増やす」「超過したから空調服の着用を必須にする」というように、測定値を引き金にグッズの使用ルールが動く形にしておけば、判断が個人の暑さの感じ方に左右されません。測定と記録の具体的な方法は、別記事「WBGT値の測り方と記録の残し方」で詳しく解説しています。
「置いておく」の考え方は、日傘のような個人装備にも適用できます。たとえば傘シェアリングの「アイカサ」は、オフィスや店舗の出入口に晴雨兼用傘を共用の置き傘として設置する法人向けプランを提供しており、社員が日傘を持参しなくても、外出時に誰でも使える状態を維持できます。
雨の日は雨傘、晴れの日は日傘として同じ傘が使えるため夏季限定の備品にならず、外出先で借りた傘は駅やコンビニなど全国1,000駅以上・合計約2,500か所(2026年7月時点)で返却できるため、持ち帰り忘れの管理も不要です。
まとめ
- 義務化されたのはグッズ購入ではなく「報告体制」と「重篤化防止の手順」。グッズはその手順を実行するための裏付けとして揃える
- 最初に揃えるのは必須7点: WBGT計、連絡網掲示、冷却用品、水分・塩分、体温計、冷房付き休憩場所、救急フロー掲示
- その先は職種別に優先順位が変わる。建設は「着る冷却」、工場は「測る・環境を冷やす」、オフィスは「外に出る時間の装備」、店舗は「ローテーションと冷却スペース」
- 5カテゴリ(環境を冷やす/体を冷やす/水分・塩分/遮る/測る)で点検すると抜けが見つかる
- 量の設計と補充ルールまで決めて「備蓄」になる
- 配布して終わりにせず、費用会社負担・共用設置・点検当番の3点で仕組み化する
グッズ選びは熱中症対策のゴールではなく、策定した手順を現場で機能させるための手段です。カタログを開く前に、まず自社の手順書を開き、「この手順を実行するには何が要るか」から逆算してみてください。
