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クールビズだけでは足りない|オフィスは28℃、通勤路は35℃のギャップ
クールビズは「室温28℃のオフィスで快適に働くための服装」の話です。ところが、その服を着て歩く通勤路は35℃。この7℃のギャップを、多くの会社の暑さ対策は素通りしています。
ネクタイを外し、ジャケットを脱いでも、朝の直射日光と満員電車は待ってくれません。オフィスに着いた時点で汗だくになり、午前中の集中力を削られる──この「通勤の暑さ」は、実は個人の我慢の問題ではなく、会社が扱うべきテーマになりつつあります。2025年6月には職場の熱中症対策が罰則付きで義務化され、外勤・営業移動はその射程に入りました。
この記事では、クールビズの現在地を整理したうえで、通勤時に体に何が起きているか、そして効果の裏づけがある対策をエビデンスの強い順に紹介します。最後に、会社として打てる施策をまとめます。

1. クールビズの現在地──「期間」はもう国が決めていない
まず前提の確認です。クールビズは2005年に環境省の呼びかけで始まった、冷房時の室温28℃を目安に、その室温で快適に過ごせる軽装を促す取り組みです。
意外と知られていない変化が2つあります。
- 期間の一律設定は廃止された: かつては「5月1日〜9月30日」と政府が期間を示していましたが、2021年度から環境省による一律の期間設定は行われなくなりました。実施期間も服装の基準も、各企業・各人の判断に委ねられています(環境省)。「うちは何月からクールビズ?」という質問への答えは、いまや就業規則や社内通達の中にしかありません
- 「28℃」は設定温度ではなく室温の目安: エアコンのリモコンを28℃にすることではなく、室温として28℃を超えないよう管理する、という趣旨です(環境省)
そしてもう1つ、本質的な限界があります。クールビズは室内前提の施策だということです。28℃の室内で快適に過ごすための軽装は、35℃の炎天下を歩くための装備としては設計されていません。半袖シャツ1枚になったところで、直射日光は防げないのです。

2. 通勤時に体に起きていること
朝でも30℃を超える
「朝の通勤だからまだマシ」は、すでに過去の話です。気象庁の観測データでは、2025年7月1日〜8月31日の62日間、東京で午前8時の時点で気温が30℃以上だった日は29日──ほぼ2日に1日のペースです。午前9時の時点では40日(約65%)に達し、8時時点の最高は8月6日の32.7℃でした(気象庁・東京の毎正時観測値より集計)。8時と9時の間のピークは拾っていない毎正時の値なので、体感としての「8時台に30℃超え」はこれより多いはずです。
気温だけではありません。通勤路では複数の熱源が同時に体を攻めます。
- 直射日光: 晴天時の日射は、気温に加えて体感温度を大きく押し上げる。暑さ指数(WBGT)は気温・湿度・日射等から算出され、日なたと日陰で明確に差が出る(環境省 熱中症予防情報サイト)
- 路面からの照り返し: 真夏のアスファルト路面温度は50℃を超えることがあり、足元からの放射熱を受け続ける
- 満員電車の湿度: 車内は冷房が効いていても、混雑時は人の熱と湿気がこもる。「駅まで歩いて汗をかく→冷えた車内→また炎天下」という急激な温度変化の繰り返し自体が体への負荷になる
「気温」ではなく「WBGT(暑さ指数)」で見る
熱中症リスクの指標として公的に使われているのはWBGT(暑さ指数)です。気温だけでなく湿度と日射を織り込んだ数値で、環境省の熱中症予防情報サイトで地点別の実況・予測が公開されています。
WBGT | 危険度(日常生活の指針) | 通勤への当てはめ |
|---|---|---|
31以上 | 危険 | 外出はなるべく避ける水準。通勤せざるを得ないなら対策必須 |
28〜31 | 厳重警戒 | 炎天下の移動を避ける。日陰ルート・日傘・時差の検討 |
25〜28 | 警戒 | 運動や重労働時は定期的に休息。徒歩の長い通勤は注意 |
25未満 | 注意 | 激しい運動時は注意 |
(日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」に基づく区分)
重要なのは、同じ気温でも日なたと日陰、乾いた日と蒸し暑い日でWBGTは大きく変わることです。「オフィスの28℃」は空調で管理された28℃ですが、「通勤路の30℃」は日射と湿度が乗った、指標上ずっと危険側の30℃です。後述する熱中症対策の義務化も、このWBGTを基準に発動します。
「通勤で消耗してから働く」ことのコスト
熱中症による救急搬送者は2024年5〜9月で約9.7万人と過去最多水準に達しました(消防庁)。搬送に至らなくても、朝の通勤で大量に汗をかいた状態は、脱水と疲労のスタートラインが手前に来ることを意味します。始業時点で消耗している従業員が生む生産性の低下は、数字に表れにくいだけで確実に存在します。
3. 職場の熱中症対策は「義務」になった
2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、職場の熱中症対策が罰則付きの義務になりました(厚生労働省)。概要は次のとおりです。
- 対象: WBGT28以上または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行われる作業
- 義務の内容: 熱中症の自覚症状や兆候がある労働者を早期に把握するための体制整備、重篤化を防ぐための手順作成、関係労働者への周知
- 罰則: 違反には罰則が科され得る
ここで通勤との関係を正確に整理しておきます。
- 自宅からの通勤そのものは、この義務の直接の対象ではない
- ただし、営業の外回り、現場間の移動、屋外での顧客対応など、業務としての屋外移動は対象になり得る。「移動時間だから対策不要」とは言えない
- 通勤中の熱中症も、状況により労災の対象となる場合がある(通勤災害)。会社に法的義務がないことと、会社が何もしなくてよいことは別問題
つまり、「オフィスの中は28℃に管理しています」だけでは、義務化時代の暑さ対策としては不完全です。外勤者の移動と、その手前にある通勤にどう手を打つかが、次の論点になります。
4. 効果の裏づけがある対策──エビデンスの強い順に
暑さ対策グッズは無数にありますが、効果の裏づけには濃淡があります。公的機関の実証データがあるものから順に並べます。
①日傘──公的実証データのある日射対策
環境省は2019年、人工気象室(気温30℃・湿度50%・日射量1.2kW/m2相当)での比較試験の結果を公表しています。
- 日傘を使うと、帽子のみの場合と比べて汗の量が約17%減少(環境省・2019年)
- 日傘はWBGT(暑さ指数)を1〜3℃低減する効果があるとされる(環境省)
日傘の本質は「持ち歩ける日陰」です。直射日光という通勤路最大の熱源を頭上で遮断するため、理屈のうえでも実測のうえでも効果が明確です。環境省は性別を問わず日傘の活用を推奨しており、男性の利用も年々増えています(男性の日傘については別記事で詳しく扱っています)。
②服装・素材──「軽装」より「機能」で選ぶ
クールビズの本丸である服装も、選び方で差が出ます。
- 吸汗速乾素材: 汗が蒸発するときの気化熱が体を冷やす。綿100%は汗を含んで乾かず、蒸発冷却が働きにくい
- 淡色: 濃色は日射を吸収しやすく、表面温度が上がりやすい。通勤用の上着・帽子は淡色が合理的
- ゆとりのあるシルエット: 衣服内の空気が入れ替わることで熱がこもりにくくなる
- 首元・袖口が開いた服は熱の放出経路になる
③冷却グッズ──「快適性」と「深部体温」を分けて考える
ネックリング、冷感タオル、ハンディファン、冷却スプレー。これらは体感を確実に改善しますが、深部体温をどこまで下げられるかはグッズと使い方によります。
- 首元の冷却: 太い血管が皮膚近くを通る首は、冷やす部位として合理的。保冷剤タイプは溶けるまでの時間に限界がある
- ハンディファン: 汗の蒸発を促すことで冷却効果を高める。ただし気温が体温に近い猛暑日には、温風を当てるだけになる場面もあり、ミスト併用などの工夫が要る
- 冷却グッズは「日射を遮る対策(日傘・帽子)を前提に、上乗せする」位置づけで考えると失敗しない
④水分・塩分と行動の工夫
- 出発前にコップ1杯の水分を摂ってから家を出る。喉が渇いてからでは遅い
- 大量に汗をかく日は塩分も補給する(環境省・厚生労働省の熱中症予防の基本)
- 日陰ルートの開拓: 遠回りでも並木や建物の陰を通るルートは体感がまるで違う
- 1本早い電車: 混雑率が下がるだけで車内の熱負荷は減る。急ぎ足そのものが産熱を増やすため、時間の余裕は立派な暑さ対策
⑤体を暑さに慣らす──「暑熱順化」という土台
グッズ以前の土台として、暑熱順化(体が暑さに慣れること)があります。汗をかき始めるタイミングが早くなり、体温調節がうまく働くようになる適応で、日常的に汗をかく機会を持つことで進むとされています(日本気象協会「熱中症ゼロへ」ほか)。
- ウォーキングや入浴(湯船につかる)など、無理のない発汗の機会を数日〜2週間程度続けると順化が進むとされる
- 逆に、梅雨明け直後や連休明けは順化が切れており、熱中症が急増しやすい時期。この時期の外勤・通勤は特に警戒が必要
- 順化していても暑さに「強くなる」わけではない。あくまで①〜④の対策の土台

5. 会社ができること──個人の工夫を「制度と備品」で支える
ここまでの対策は個人でも打てますが、会社が動くと実行率が変わります。費用の小さい順に3つ挙げます。
①服装規定の明文化
「クールビズ実施中」と言いながら、暗黙のドレスコードが残っている職場は少なくありません。「結局ジャケットを持って出る」のでは意味がないので、線引きを文書にします。
- ポロシャツ・チノパンの可否、ノーネクタイの範囲、顧客訪問時の基準を明記する
- 通勤時の服装と執務時の服装を分けてよいことを明示する(通勤はTシャツ+着替え、を認める会社も増えている)
- 期間は「気温・WBGTベース」で定義すると、国の期間設定廃止とも整合する(例: 予想最高気温28℃以上の日)
明文化のイメージ(一例):
項目 | 規定例 |
|---|---|
実施条件 | 東京の予想最高気温25℃以上の日(期間固定ではなく気温連動) |
執務時 | ノーネクタイ・ノージャケット可。襟付きポロシャツ可。 |
通勤時 | 服装自由(Tシャツ可)。執務時服装への着替えを認める |
顧客訪問 | 事前に先方のクールビズ実施状況を確認し、合わせる |
備考 | 日傘・帽子の使用は執務時間中の外出を含め制限しない |
最後の1行が意外に効きます。「日傘を使ってよい」と就業規則レベルで明記している会社はまだ少なく、書いてあるだけで使用のハードルが下がります。
②時差出勤・テレワークの柔軟運用
- 猛暑日予報の日は始業時刻の前倒し・後ろ倒しを認める(朝7時台と9時台では通勤環境が大きく違う)
- 最高気温やWBGTが基準を超える日のテレワーク選択を認める
- 外勤は「最も暑い13〜15時を避けてアポイントを組む」ことを部署ルールにする
③共用の備品を置く──「借りられる」が行動を変える
個人任せにすると、日傘や冷却グッズは「買おうと思っていたが買っていない」まま夏が終わります。会社の玄関に共用の備品があれば、思い立ったその日から使えます。
- 共用の日傘(晴雨兼用)を玄関の傘立てに用意する
- ネックリング等の冷却グッズを冷凍庫にストックし、外勤時に持ち出せるようにする
- 飲料・塩分タブレットの常備
共用傘の運用を仕組みごと導入する方法として、傘のシェアリングサービスもあります。たとえばアイカサはオフィスに約48cm四方・工事不要の傘立てを設置し、従業員が無料で傘を使える仕組みです。
借りた傘は駅やコンビニなど全国1,000駅以上・合計約2,500か所(2026年7月時点)で返却できるため、「借りたら返しに戻る」手間がなく、外出先・直帰でもそのまま使えます。
さらに2025年夏からは、晴雨兼用・UVカットの折りたたみ日傘「アイカサmini」のシェアリングも都内主要駅で始まっており(アイカサ発表・2025年7月)、シェア型の共用備品は雨具から日差し対策へと広がりつつあります。
④外勤者向けの運用チェックリスト
義務化への実務対応も兼ねて、外勤のある部署では次のチェックリストを整備しておくと安心です。
- [ ] WBGT・気温の確認手順を決めている(環境省サイト等、誰がいつ見るか)
- [ ] WBGT28以上(または気温31℃以上)の日の外勤ルールがある(時間帯調整・移動手段の変更・同行者との相互確認)
- [ ] 体調不良時の報告先と対応手順(誰に連絡し、どこで休ませ、いつ救急要請するか)を全員が知っている
- [ ] 日傘・飲料・塩分タブレット・冷却グッズを会社が用意し、持ち出せる場所にある
- [ ] 「暑い中ありがとう」で済ませず、移動を減らすアポイントの組み方(オンライン併用・エリアまとめ訪問)を上長が推奨している
このうち上から3つは、2025年6月施行の改正労働安全衛生規則が求める「体制整備・手順作成・周知」に直結する項目です。
まとめ──ギャップを埋めるのは「服装」ではなく「日陰と制度」
- クールビズは室温28℃の室内で快適に働くための施策。期間の一律設定は廃止され、各社の判断に委ねられている
- 通勤路は直射日光・照り返し・満員電車の湿度が重なる35℃の環境であり、軽装だけでは埋まらないギャップがある
- 2025年6月から職場の熱中症対策は罰則付きの義務になり、外勤・営業移動は対象になり得る
- 個人の対策は日傘(環境省実証で汗約17%減)→機能性素材の服装→冷却グッズ→水分・行動の順で組み立てる
- 会社は服装規定の明文化・時差出勤・共用備品という費用の小さい施策から、通勤と外勤の暑さに手を打てる
クールビズが始まって20年。「オフィスの中」の軽装化は定着しました。次の20年で問われるのは、オフィスの外──通勤路と外勤先の暑さに、会社としてどう向き合うかです。
外勤・通勤の日差し対策を備品から始めるなら
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